腹ペコ少女とパン屋の息子

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 話しすぎたかなと、ぼくは口をつぐんだ。  国家が正式に受け入れた人も、違法入国者も、ぼくらはひっくるめて「移民」と呼んでいる。じいちゃんは後者で、ぼくの家には、同じ境遇のお客が多い。母国のパンを懐かしむ人たちのために、あれこれ手を尽くしたのだけど、父さんも他の職人さんも再現できなかった。 「まあ、そんなことはどうでもいいか。一口で、何がわかるの?」 「なんとなく……塩とか小麦とか」  ごにょごにょと口ごもるぼくを、ケイはにやにやと見つめている。 「へえ、すごい! でも、タダってわけにはいかないな」 「……売れ残りのパンくらいしか、あげられないけど」 「いいわ。交渉成立」  口をつけていないパンの端を、ケイはむしって、ぼくに差し出した。 「硬いし、売れ残りがいつ出るか、わかんないよ?」 「それって、売れ残りが出るまで日延べするたびに、利息分のパンが増えるってこと?」 「高利貸しにもほどがあるぞ」  受け取ったパンには、ケチャップがついていた。
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