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あ、うん
引き出物の袋を二つ提げた私が店に入ると、カウンターの向こうで彼がバカルディのゴールドボトルをつかむのが見えた。
出会って十五年。
顔を見ただけで飲みたいものが出てくる「あ、うん」の呼吸はラクチンでいい。
大学を卒業後、外食チェーンに入社した彼は、週に一日、父親のバーを手伝っている。少し前まで貸切営業だったせいか、客はいなかった。
「いいお式だった。キューピッドによろしくって」
カウンターに座りながら言うと、彼は苦笑した。
十五年前の春。
大学の寮に入っていた私と彼は、寮長と副寮長が帰省中、女子寮と男子寮の寮長代理を押し付けられていた。
その彼が私を呼び出して真剣な顔で言ったのだ。
「男女共同でひなまつりパーティをしよう」
男子寮の魂胆は見え見えだった。
「男子がひなまつり? 寮監の許可出ないよ」
「……男子寮で飼っているネコがメスだよ!」
彼の必死さに笑ってしまった。
私が提案したのは、「留学生に日本の伝統を知ってもらう」という名目。ひなまつりパーティは結構盛り上がった。
企画を持ち込んできた割に、彼は一人で黙々と菱餅を食べていた。
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