卒業

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「お邪魔します。」 秀兄の部屋に入るのは久しぶりだった。 私の部屋に秀兄が来たのも、引っ越しの時だけだ。 やっぱり、真由さんの手前、気を遣っているんだろう。 「今、お茶わかすから。」 実家の雰囲気と同じ。 物が少なくて片付いてる。 真由さんが片付けてるのかな… 「どうぞ。」 「ありがとう。」 お茶をすする音が、静かな部屋に妙に響いて気になる。 「実は、俺…あの店を受け継ぐことになったんだ。」 「え?店を…?」 「うん、マスターが体調のこともあって、引退するから…」 「そうなんだ…」 「それと……真由、結婚するんだ。」 「えっ!」 やっぱり……悲しい現実に、鼻の奥がつんと痛くなった。 「真由は、結婚してロンドンに行くことになった。 だから…良かったら、祥子に店を手伝ってもらえないかって…」 (え……!?) 「ひ、秀兄…今、なんて?」 「え?だから、真由は結婚してロンドンに…」 「結婚って…秀兄とじゃないの!?」 「は?なんで俺が真由と結婚するんだよ。」 「えーーっ!」 驚き過ぎて、私は素っ頓狂な声を上げてしまった。 「何?お前、俺と真由が結婚すると思ってたのか?」 「え?そ、そういうわけじゃなくて…」 焦ってしまって、言い訳も何も出来なかった。 「祥子…これを機会にっていうのも変だけど…… 俺と付き合ってくれないか?」 「えええっ!?」 びっくりし過ぎて、私は何も言えなくなってしまった。 ただ、熱い涙がぽろぽろこぼれて来て… 「何、泣いてんだよ。 まさか、そんなに嫌だったのか?」 「ち、違うよ! びっくりしただけ! それと、嬉しかっただけ! だって、私も秀兄のこと、大好きなんだもん!」 「……マジか!?」 秀兄が照れくさそうに微笑む。 私の大好きないつものあの笑顔… これからこの笑顔は私のものなんだ。 そう、私だけのもの…! 私は今日『妹』から卒業して『恋人』になれたんだ…! そう思ったら、さらに熱い涙が頬を伝った。 秀兄は戸惑ってるみたいだけど、この涙はなかなか止まりそうになかった。
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