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夜は濃い
●
肌寒い風が吹き、花弁が空に舞う。薄ピンクの花弁は夜の紺色に散りばめられて、星のように輝く。
思わず感嘆の声が漏れる。
ベンチに置きっぱなしにしたまま存在を忘れてしまっていた缶ビールを思い出し、一息に飲み干す。渇いたカラダに染み渡り、またもや声が漏れる。すっかり酔いが回っていた。
〇
缶ビールを片手に、帰り道の桜並木の道を歩く。はらはらと降る桜が作る魔法の絨毯のような薄紅の地面を踏む度に、ある想いが体を支配してゆく。
その想いを押し流すように疲れた体にビールを流し込む。ビールの缶越しにみる空には、薄っぺらな雲がせっかくの満月を隠してしまっているのが見えた。
──まるで私みたいだ。
自惚れた感想を抱いた自分が恥ずかしくなり、頭をぶんぶんと横に振った
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