第一部 死闘編  第一回 約束

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①石川城 朝日と共に鶏が鳴く。一人の青年と初老の男性が旅の支度をしている。 青年の名前は、久慈平蔵。南部久慈氏の子として生まれ、今は、この城の城主石川高信の小姓として仕えている。歳は数えで18。髭も無く、つるんとした顔をした好青年。 初老の男性は、小笠原信浄。南部久慈氏の家臣だったが、平蔵が4歳の時から平蔵の付き人となリ、平蔵からは「爺」と呼ばれている。 平蔵「将兼が見送りに来るって言ってたけど遅いなあ。書き置きして出立しようか。」 信浄「噂をしていれば、ひょっこり現れるんじゃないですか。津軽衆ですから。」 噂をしているところに、ひょっこり姿を現すことを「津軽衆だなぁ」と言うそうだ。 そこに板垣将兼がひょっこり現れる。 将兼「遅くなってすまん。」 平蔵「津軽衆だなぁ(笑)」 信浄も笑う。将兼も笑う。 板垣将兼は、平蔵と共に石川高信の小姓として仕えていたが、平蔵より一足先に出世。石川高信配下杉館館主を務めている。所領は、330石。 平蔵と将兼は、多感な時期を共にして厚い友情で結ばれていた。 将兼「良い婿入り先が決まって大出世だな。おめでとう。」 権力者の小姓は、言わばエリート。城主の石川高信は、南部晴政から津軽郡代を任される程の権力者。津軽の人事は、概ね思いのまま。 平蔵の婿入り先は、大浦家。郡代を補佐する家柄。所領は一万石を超える。その家督を継ぐことも決まっている。 久慈氏の嫡男でない平蔵が、久慈氏と同等、もしくはそれ以上の家を継ぐ。大出世である。 平蔵「ありがとう。お前は、終生一番の友だ。」 将兼「そうだな。離れ離れになろうとも、お前が一番の友だ。命ある限り一番の友だ。神に誓って一番の友だ。」 二人は、固く手を握り合う。 平蔵「さて、出立だ。」 将兼「しかし、お前がいきなり郡代補佐とはな。威厳がないなあ。髭くらい生やせよ。」 平蔵「三国志の関羽のように生やすさ(笑)」 見送りは、板垣将兼だけ。平蔵の大出世を妬む者もいるとか。 平蔵は、小笠原信浄と二人で、石川城を出立。婿入り先の大浦城に向かった。
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