うさぎやと受験生

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うさぎやと受験生

短編3 神様御用達の甘味喫茶「うさぎや」と受験生  お客様は神様です。  そんなことを誰が口にしたのだろうか。  ここは産右(うぶう)神社のおひざ元。甘味喫茶店・うさぎや。  うさぎやのコーヒーを求め、今日も神様が店を訪れる。  なお、『お客様は神様だ』なんていう文言はこの店に限っては比喩表現ではない。  本当にうさぎやには神様がお客様としてやってくるのだ。 「あぁ、そうだ」  会計を済ませていた常連客の一人、鷲崎が突然声を上げた。 「どうしたんですか?」  師匠に弟子入りしていたころからの付き合いで、めったに動揺を見せない自分より10も年上のサラリーマンの声にこのうさぎやの店主、若き店長慶一郎は聞き返す。 「いや、たいしたことではないんだが……」  彼は少しだけ申し訳なさそうに笑って、書類の詰まったバッグから小箱を取り出し、カウンターの台の上に置いた。 「甘い匂いがするのじゃ」  いつも昼からこの小さな甘味喫茶に入り浸って、コーヒーとお菓子を食してばかりいる客……朔が声を上げる。  ここしばらく見ていなかった朔だが、ある日をきっかけにまたこの店に通い詰めている。目的はコーヒーと抹茶アイスらしい。     
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