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はしゃぐその姿は子供のような容姿も相まって、どこかほほえましい。彼が本物の神様なのだとは、鷲崎は信じていないようだ。この紺色の和服を着た少年にいつも険しい表情の鷲崎はわずかに顔の筋肉を緩めた。
「営業周りの際にもらったんだ。俺は甘いものは食わんし、一人暮らしだからな」
どうやらこの店の者に処理してほしいということらしい。鷲崎はこうやってもらった菓子をこの店に置いていくことがたびたびある。
「いつもありがとうございます。鷲崎さん」
「いや、こっちも助かる」
そう言って彼はわずかな休憩をうさぎやで過ごし、次の取引先へと言ってしまった。
「で、これはなんじゃ?開けてよいかのう?」
「……普通、これはもらった店長の慶一郎が開けるものじゃないか?」
アルバイトのハジメはそう冷たく言ったのだが、慶一郎はこの店にともらったものだからとあまり細かいことにはこだわらない性格だ。
結果、いつも朔がさっさと箱を奪い取って開けてしまうことになる。
「これは砂糖の菓子じゃ!」
「和三盆……落雁かな?」
見れば小さな箱の中に花鳥風月をかたどった小さな砂糖菓子が入っている。
「お、これはわしじゃ」
月の神様らしい朔はその小さな桐箱から月の形をした落雁を取り出して、楽しそうに笑う。
「こんなものが嬉しいのか?」
食べることにあまり興味のないハジメははしゃぐ策に何か思うところがあったのか、わかりやすくため息をついた。
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