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「なんじゃ、おぬしにはこれをやらんのじゃ」
「いや、いらないが……」
「あ、これは……」
すぐに興味が会話から逸れてしまった朔は左手で花の形をした砂糖菓子をつまむと、それを高く掲げた。
「これはおぬしじゃ」
そう言って、朔が連れてきた還暦間近ほどの男に差し出して見せる。
「なるほど、これは私です」
そう言って男はその落雁を両手で受け取る。
朔の外見と言動が幼いこともあるだろうが、彼はひどく穏やかそうな顔をして干菓子を見るので、二人の姿は祖父と孫にも見える。
「しかし勝手にいただいてよいのですか、朔殿?」
「構わぬのじゃ」
朔がこの調子なので、男は確認のために慶一郎を見やる。
「構いません。たくさんあるので」
実際、小さな桐箱とはいえ、そんなにたくさんの落雁は食べ切れない。店へのいただきものだから、別に店の客に食べてもらっても構わないだろう。
もっともこの男の正体など慶一郎は知らない。
朔はこの男を「天満」と呼ぶ。
何の神様か慶一郎は知らない。ただ、神社に務めている十夜は「子供のころは本当に本当にお世話になりました。けど、もう世話になることもないしなぁ」と含みのある発言をしていた。
まぁ、それでも詮索するつもりはない。
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