あの日

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 僕は半分空白のイラストをダウンロードし、ペイントソフトを開いた。床に転がっていたペンタブレットをパソコンにつなぎ、ペイントソフトで彼女のイラストを開いた。  「花と鏡」は完結した。当時の中高生のバイブルだった。少年少女が半ばファンタジーチックな世界に放り込まれ、そこから抜け出すという内容だった気がする。そして主要人物の少年少女たちは全員過去にトラウマや傷を持っていたことも僕や彼女にとっての魅力の1つだったのかもしれない。  僕はペンタブレットに付属されているペンで男性キャラを書き殴った。当時の彼女の年齢を僕はこえてしまった。だからこそかきたい。その気持ちは20錠もの薬を飲み込んだことを感じさせないくらい、僕を集中させた。  高校生の地味なキャラクター。フリーターで目が死んでいるキャラクター。小学生で生意気なキャラクター。その半分を僕はキャラクターで埋めていった。彼女が丁寧に描いたように、僕も丁寧にペン入れ、色塗りをしていた。  完成したのはそれから4時間後だった。 「久しぶりに絵、描いたかもしれないなあ」  彼女の絵柄は少女を描くのに適していた。笑う出来事が少なかった割には、いや、だからこそか彼女の描くキャラクターは生き生きと笑っていることが多かった。ふわふわとしたパステルカラーを好んで使っていた。寒色を好む僕とは大違いだなと話した記憶もある。  半分が埋まったイラストを僕はPNGで保存し、ピクサーを開く。  僕は「お久しぶりです、精いっぱいのイラスト描いたので、良かったら見てください」と文字を打ち、ささき夕音とのダイレクトメッセージに送り付けた。送信完了の表示がでた瞬間、僕は力が抜けてしまった。
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