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……実はわたしも一度、彼の今までについて、ありとあらゆるサイトに飛び回り調べてみたことがある。しかしやはり出てくるのはここ最近の記事ばかりで、事実かどうかも怪しい経歴がじりじり綴られているだけだったのを、たしかに覚えている。
「でも、今日は、良かったね。MCが、いつもより……。」
「あー! わかる!」
食い気味なのはいつも通りだ。典子はコンサート後の高揚に負けて、ハイになるタイプだし、もともとエネルギッシュなのだから。
「あのさあのさ、あたしさ、あれ好きだったわあ。「俺の歌が魔法になれば」ってやつ。」
「わたしもね、正にそれを言おうとしてました。」
ッイェーイ。ハイタッチが軽快な音を立てる。しかし二人の足は止まらず、昼間通った歩道橋にさしかかっていた。
「エモかったねー。あれは。」
「なにげ「おれがやさん」だったしね。」
「それもエモポイントだよなあ。」
「わかる。」
蛇足だが、「おれがやさん」と言うのはわたしたちが推しているミュージシャンの一人称が「俺」になっている時の通称(?)である。彼は普段、丁寧な言葉を使い、一人称を「僕」としている人間だから、勝手にそんな呼び名が付いているのだ。ある種の状態異常みたいな扱いで、だいたい興奮している時や、真面目なMCでぽろっと溢れることが多い。そんな「おれがやさん」をウォッチングできると、なんとなくテンションが上がるのは、オタクだからと言うわけではあるまい。
「かっこよかったよねー。痺れたわあ。」
「そうだね。そのMCのあとに「うたうたい」なのがまたね。」
「そう! ここでか、やられたぁっ! ってなったよね!」
いつのまにか渡りきった歩道橋を振り返り、走り抜ける軽トラを見送って、思い出す。俺の歌が、と叫ぶわたしのヒーローを。
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