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探偵事務所にて
元々探偵業が本業の綾瀬である。
(ちなみに、佐々木亜夢は【綾瀬探偵事務所】のバイト兼見習いだ)
彼等にとって、平凡なサラリーマンの住所・氏名・年齢・電話番号、務めている会社、そのくらいの情報など手に入れるは朝飯前だった。
マスターの意中の相手は、三河明夫、27歳、○○商事に勤め、都内の単身者向けアパートに住む、電話番号080※※だ。
実に平々凡々、並の中でも超ド真ん中。容姿も普通で特に特徴もなく、中肉中背の若干痩せ型。どこにでもいる、普通の男性だった。
「――――でも、きっとそういう普通ってのが、マスターのハートに響いたんだろうなぁ」
綾瀬はタバコをふかしながら、報告書に目を通してそう呟いた。
「はぁ? そういうもんですかねぇ~? 」
カメラを手入れしながら、半信半疑そうに呟く佐々木に『被写体の画像データをパソコンに送ってくれ』と告げ、綾瀬は頷く。
「ほら、レベッカはいわゆるゲイバーだろう? そこに毎回男が一人で出向くなんざ、ワンチャンで相手を探す場合が多い。相手を値踏みしているようなヤツ、お前も見た事あるだろう? でもこの三河ってリーマンは、そんなガツガツした様子もなく毎回静かに一杯だけ飲んで、大人しく帰っていく。そこにマスターは惹かれたんだろうな――」
「でも、そもそもウチはハッテン場じゃないって、いっつもマスター言ってますよ? それなら、ノンケが仕事帰りに一杯だけ飲んで帰って行くのも変じゃないと思いますが……」
「マスターは、な」
写真をチェックしながら、綾瀬はフゥと煙を吐いた。
「毎回カウンターの端っこ、か。嫌な予感が当たったようだ。――――三河の視線の先を見てみろ」
綾瀬はそう言うと、画像データの一点に焦点を当てて拡大する。
佐々木は横からパソコンの画面を見て『あっ』と声を漏らした。
「誰かいますね――奥の方のテーブル席に、三河と同じようなリーマンが。ええと、何かロープ? のような物を、カバンに仕舞おうとしているようですが……」
「これは、ストラップだな。社員証を首から提げる時に使うヤツだ」
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