恋ノ狩人

恋するマスター

　振り向き、佐々木は抗議の声を上げる。

「所長！　遅いですよっ！　」

　そこに居たのは、四十絡みの洒脱な男だった。マスターとは違う、これまた中々ダンディズム溢れる壮年の男性である。

　着ているのがヨレヨレのスーツにくたびれたネクタイでなければ、さぞやイケメン俳優のように格好いいだろう。

　男は、悪戯っ子のようにキラキラ光る特徴的な瞳を細めて、口を開いた。

「スマンスマン、出掛けに野暮用があって…………ところで、だ」

　ゴホンと咳払いし、佐々木に所長と呼ばれた男性――綾瀬塔矢(あやせ とうや)は、腕組みをしているマスターを見遣った。

「で、ここのツケ、チャラにしてくれるって？　」

　どうやらツケがあったのは、こちらの綾瀬であったらしい。

　佐々木は『オッサン！　あんたかよ!!　』と、思わず突っ込んでいた。