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そのストラップには佐々木も見覚えがあった。派手な蛍光色に、黒のラインが一本…………。
「そ、三河明夫と同じ○○商事のストラップだ。あそこは特殊繊維を作っている会社で、社員のストラップも自社製指定だ。で、黒ラインの数は違うが……隣で仲良さそうに座っているヤツのも、同じだな」
その指摘通り、拡大して注視すると、ラインは違うがお揃いのストラップが、尻ポケットから少しだけ覗いているのが分かった。
普通なら見逃しそうだが、そこら辺はさすがと言ったところか。
――――だが、しかし…………。
「つまり三河は、毎回毎回カウンター席から、距離のあるテーブル席の、この男をガン見していたって事ですか? いったいなんで? 同じ会社に勤めているなら、その会社で幾らでも会えるでしょうに」
尤もな佐々木の指摘に、綾瀬は苦笑を返した。
「今の世の中、幾らマイノリティに優しくなったとはいえ……いざ自分の事となると、話が違ってくるもんだ」
「ようするに……三河はこいつに声を掛けるチャンスを窺っていたと? ん? でも、この相手もレベッカに来ているとなると――」
「ワンチャン相手かガチのパートナーか知らないが、三河は出遅れちまったようだな」
フゥと溜め息をつき、綾瀬は短くなったタバコを灰皿にギュッと押し付けた。
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