60人が本棚に入れています
本棚に追加
恋ノ狩人
ホワイトデーに託けてプレゼントを贈ろうかなと、レベッカのマスターは、じつは密かにネクタイを買っていた。
『バレンタイン、僕は何も贈ってないですが』
――そう言われたら『あら? アタシ皆からたくさん貰うから、てっきりアンタもそうだと思っていたわ。でも、これはアタシの気持ちだから貰ってやって頂戴』と返すのだ。
――――うん、この流れなら普通だ。違和感はない。
そしてネクタイの入った箱には、ピンクのカードを入れておく。
『あなたが好きです。恋人になってください』
さて、これを何気なく渡そうかと思うが。
しかし、綾瀬の報告を聞いてから行動に出るべきか、こっちのスタンドプレーを実行するべきか?
――――そんな事を考えていた矢先に起こった、よくある……でも、何度体験しても、やっぱり切ない出来事だった………………。
◇
「――で、この報告書はもういらないと? 」
「そう~よぉ! だって、向こうの方からバラシて来たんだもん。それに、彼ったらアタシの事は全然眼中に無かったようだし。何だか癪に障ったけど、仕方ないからこっちから背中を押してやったわよ」
「あんたも、人がいいねぇ……」
フゥと溜め息をつく綾瀬に、マスターはバチンと音がしそうなウィンクを投げる。
「あらん? じゃあ綾瀬ちゃん、アタシと付き合ってくれる? 」
すると、すかさず隣から「ウチの所長をそっちの世界に誘わないでください! 」と、佐々木の抗議の声が上がった。
「アハハハハ! 可愛い顔して相変わらず生意気ねぇ、佐々木ちゃんったら! 」
力強い手でバンっと肩を叩かれ、佐々木は『いっったいなぁ』と悲鳴を上げる。
最初のコメントを投稿しよう!