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前編・清掃員高田さん
今日も高田さんは、山の街にあるアーバンコンフォート26のエントランスの自動ドアの窓を拭いていた。時刻は九時半を少し回ったところだった。8時から仕事を始め、マンション入り口の外構の落ち葉を掃き、従業員トイレの掃除をした後、窓を拭き始めると大体、このくらいの時間になる。いつも通りだ。
アーバンコンフォート26は、12階建て、戸数84の中型分譲マンション。ここの掃除夫として高田さんは一人、週三日、月、水、金、朝八時から夕方四時まで働いていた。
高田さんはバケツの水に、汚れたタオルをつけ、ゆすいだ。もう、水の冷たさも気にならないほどに、季節は暖かくなっていた。
「おはよう」
「おうっ」
高田さんに声を掛けてきたのは、制服姿の杏奈だった。今日は長い髪をきれいに全て後ろにまとめ、ポニーテールにしている。
杏奈はこの山の街アーバンコンフォート26の804号室の住人だ。大体、いつもこの時間に、高田さんに声を掛けてくる。
「朝ごはんは食べたか?」
高田さんが、笑顔で杏奈を見た。
「食べたわ」
「そうか」
高田さんは、笑顔のまま、また窓拭きに視線を戻した。
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