前編・清掃員高田さん

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 杏奈はなぜかここの清掃人の高田さんに懐いていた。だからいつも、高田さんが掃除をしている隣りに寄って来ては、話しかけて来た。高田さんも、そんな無邪気な杏奈をかわいがった。 「毎日それを訊くわ」  杏奈はそのクリクリとした、黒目がちなきれいな大きな目で高田さんを見る。 「そうか。はははっ」  高田さんは窓を拭きながら笑った。 「他に訊くことはないの?」 「はははっ、じゃあ、君の年はいくつだい?」  二人は知り合ってから、だいぶ月日が経つが、お互いの年を知らなかった。 「15。今年16だけど」 「そうか、じゃあ、高校一年生だな」 「そうよ。隣町の県立君影高校よ。高田さんはいくつ」 「こんな、おっさんの年訊いてどうすんだ」 「どうもしないけど、気になるわ」 「はははっ、そうか」 「ねえ、笑ってないで教えて」 「俺は、52」 「へぇ」 「なんだよ、そのリアクション」 「別に意味は無いわ。でも、思っていた年と違ってた」 「思ってた年はいくつだよ」 「45」 「ほお、うれしいね」  高田さんは相変わらず、窓とにらめっこしながら笑った。 「仕事辛くない」  高田さんのそんな仕事振りを見つめ安奈は言った。 「仕事中はいつだって、気分は最低だ」 「ふふふっ」  杏奈は笑った。 「早く、労働の無い平和な社会が来てほしいものだよ」  高田さんがおどけて言うと、杏奈は、更に笑った。 「この仕事って、お給料いいの?」     
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