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「ところで、君は何かやりたいことはないのかい。例えば、スポーツとか芸術とか」
高田さんはタオルをゆすぎながら杏奈を見た。
「何か強烈にうちこむこととか、のめりこむこととか」
「私は何もない」
「う~ん、そうか、ま、それも、人生さ。それはそれでいいんじゃないか」
「う~ん」
「何もせず、のんびり生きる。それも人生さ」
「う~ん、でもそれは何だかつまらない気がするわ」
「そうか。はははっ」
「私はどうしていいか分からないの」
「難しく考え過ぎなんじゃないか」
「そうかもしれない・・、でも・・」
「でも、か。はははっ、まあ、いろいろ悩む年頃さ。はははっ」
「高田さんも悩んだ?若い時」
「もちろん」
「どんな」
「君と同じようなことさ」
「ほんと?」
「ほんとさ」
「そして、どうしたの?」
「俺は好きなことをして生きるんだ。そう決めた」
「好きなことって?」
「演劇さ」
高田さんは立ち上がり、両手を広げた。
「演劇?」
「そう、演劇。人前で劇をやるんだ」
「それくらい知ってるわ」
杏奈は少し不貞腐れたような表情をした。
「はははっ、そうか」
高田さんは笑った。
「どんなのやるの」
「いろいろさ」
「高田さんが考えるの?」
「ああ、それもあるし、それ以外のもある」
高田さんは、タオルを絞ると、再び窓を拭き始めた。
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