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「大勢でやるの」
「大勢もあるし、一人もある」
「一人でもやるの?」
「ああ」
「怖くない」
「そりゃぁ、怖いさ」
高田さんは、杏奈を見た。
「前の晩なんか眠れないよ。ステージに立つ前はステージ袖で緊張で、体がガタガタ震えるんだ。変な汗もいっぱい掻く」
「変な汗って?」
杏奈は笑った。
「変な汗は変な汗だよ。こう・・、じめっとして、ぬめっとして・・」
「やだぁ」
「おまえが訊いたんだろ」
「ははははっ」
杏奈は大笑いした。
「高田さんは独身?」
「ああ、俺は独身だ」
「寂しくない?」
「寂しいさ。でも、しょうがない」
「好きな人はいなかったの」
「いたさ」
高田さんは昔を思い出すみたいに、遠くを見た。
「とても素晴らしい恋愛をした」
「熱く焦がれるような恋さ」
高田さんはきらきらとした情熱的な目で杏奈を見た。
「どんな。どんな感じだったの」
杏奈も目をキラキラさせて、思春期の好奇心いっぱいにその大きな目で高田さんをのぞき込むみたいに訊いた。
「本当に素晴らしい、愛だったよ。とてもとても深く深く感じるんだ。全身全霊で、心の深くから、溢れるような愛を」
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