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その眼差しには一人残された少女に対する同情みたいな温かさが宿ってはいたけれど、不意に子供を引き取ることを余儀なくされた戸惑いも垣間見え、よその家の厄介になる、という事実を絵理子が自覚した一瞬だ。
伯母ちゃんは独身でそれまで子供を育てた経験などない。幸い学校の先生をしていたから、女の子一人の面倒を見るのはそう難しいことではないとすぐ気づいたようだった。
絵理子も、年老いた伯母ちゃんに面倒をかけないよう子供心に気を遣い、甘えてはいけない、というケジメが常に脳裏にあった。二人して互いに気遣いしてきたので、もしかしたら本当の親子以上にうまくやっている関係かもしれない。
伯母ちゃんと暮らし始めてからもう十二年、亡くなった母と暮らした十年あまりより沼袋の伯母ちゃんの家での生活の方が長い。
絵理子はゆっくりと上半身をベッドの上に起こした。頭が二日酔いで痛むのは、女子大の仲間と昨晩渋谷に飲みに行き、居酒屋で生ビールのジョッキで乾杯を重ねたからだ。卒業を間近に控え、つい羽目をはずし飲み過ぎてしまった。
「伯母ちゃん、二日酔いにはお味噌汁がいいんだったっけ?」
「まったく女学生が二日酔いなんて言っているんだから、困ったものだよ。早く起きて顔でも洗っておいで」
伯母ちゃんはそう言い残すと部屋を出て行った。伯母ちゃんに小言を言われるのが絵理子にはなぜか嬉しい。肉親している、みたいな気分になれる。
昔は何も叱ってくれなかったから、伯母ちゃんにどう思われているのか不安だった。世話になっている上迷惑をかけてはいけない、という遠慮が子供心にもあり、まだ親に甘えている友達よりずっと早く大人びてしまった。
最近になって、やっと自分の精神年齢が自分の実際の歳に似合ってきたように思う。
絵理子が洗面所で顔を洗い歯を磨いてからパジャマのままでダイニングルームに行くと、テーブルの上にはいつもと同じご飯とお味噌汁の朝食が用意されていた。
「伯母ちゃんのお味噌汁、いつも美味しいね」
小さい時から食べ馴れているけれど、うちのお味噌汁は学食やファミレスで出て来る味噌汁よりはるかに美味しい、と絵理子は常々思う。
伯母ちゃんは出汁も丹念に鰹節から取るし、おかずの代わりになるようにと具がたくさん入っている。今朝の味噌汁の中身は絵理子の好きな白菜と豆腐とベーコンだった。
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