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 山奥に佇む古びた洋館。石壁は苔むし、蔦が絡まっている。激しい雨が大地を叩き、雷鳴とともに青白い稲妻が走り抜けて夜空を彩る。  今またカリカリと引っ掻くような音がしたかと思うと耳をつんざく轟音が大気を震わせた。年経りし巨木が真っ二つに裂けると同時に激しく燃え上がり、洋館の壁に不気味な影を踊らせる。  装飾を一切排した、剥き出しの石造りの広間には様々な実験器具、医療機器が並び、壁際の本棚には先進医学の学術書とともに、遥か(いにしえ)より禁書とされてきた革装丁の古書が納められている。  稲光が一閃し、明るく室内を照らし出す。部屋には二人の男がいた。その姿は対照的で、一人は長身痩躯にして白衣に身を包み、容貌は美しく整ってはいるものの、どこか病的な暗く鋭い目つきをしている。もう一人は矮躯を折り曲げるようにして白衣の男につき従っていた。 「さあ、すべての準備は整った。今宵こそは我が宿願を成さん」  白衣の男の深みのある声が朗々と響く。 「博士の研究に見向きもしなかった連中の鼻を明かしてやりやしょう」  矮躯の男がニヤリと笑う。 「邪法の研究と忌み嫌われ、悪魔の所業と謗られてきた長き屈辱の日々に終止符を打たん。ひとたび魂を失いし肉体に今一度命の炎を宿らせ、神のみに許された生命の創造をこの手で成し遂げるのだ」  白衣の男は白皙にして端正な顔を紅潮させて叫ぶ。 「見よ! かの麗しき肉体を」  白衣の男が両手を広げ、部屋の中央、高い天井から吊り下げられた十字架を仰ぎ見た。
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