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『津島伸彦』4
「美優さん、あの…僕と付き合ってください!」
予約した店で食事を済ませ、ドルチェを注文した後のことだった。伸彦はジェラート、美優はパンナコッタを選んだ。
「津島君…」美優は驚きを隠せないといった表情だ。
やってしまった。伸彦は後悔した。いきなり何を口走っているのだ。何を焦ったんだろう。美味しそうに何でも食べる彼女を見て、勝手に一人で高揚していたのか。そっと彼女の方に顔を向けた。その瞳は少し潤んでいるように見えた。
「ティラミスにすればよかった…」美優がぽつりと呟く。
「え?」まさか聞こえなかったわけではないだろう。今さらパンナコッタを後悔しなくても…
「私で良ければよろしくお願いします」突然背筋を伸ばしたかと思えば、彼女はそう言いながら深々と頭を下げた。
「美優さん??」
顔を上げた彼女が、「ありがとう津島君…」と、目を真っ赤にしながら微笑んでくれた。
「こ、こちらこそ」伸彦も頭を下げた。
「ははは、なんかお見合いみたいだね。お見合いしたことないけど」
「そう…ですね、はは」
「もう、びっくりしたよう」
「あ、それはごめんなさい」
「でも…ほんと嬉しい」
「僕も、です。夢じゃないかと」
「頬っぺたつねりますか?」美優は真顔で腕を伸ばしてきた。
「いや、その、はい、大丈夫です」伸彦は自分でも有頂天になってるなと思った。間違いなく今この店で一番の幸せ者だ。それにしても彼女の頭の回転の速さというべきか、ちゃんとこちらの意図を汲んで反応してくれる配慮がたまらなかった。さっきの彼女の真顔がそれだった。うん、やっぱり好きだ。伸彦は改めてそう思った。
二人は運ばれてきたドルチェを存分に楽しんだ。ジェラートってこんなに美味しいものだったのか。初めて食べたその味を伸彦は忘れまいと思った。
そんな伸彦を見た美優が、「ひと口ちょうだい」とねだってきた。
「あ、どうぞどうぞ」
「じゃあ、これあげるね」パンナコッタが寄せられる。
はあ…付き合うってこういうことなんだな。伸彦は始まったばかりの幸せを噛み締めた。
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