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「あ、ここは僕が払いますから」レジに向かいながら言った。
「あー、だめだめ。約束したでしょ?私がお祝いする、って。卒業と就職の」
「いや、でも…」記念になった最初の食事を今や彼女になった人に払って貰うのにも多少抵抗があった。
「ほら、津島君。お手洗いでも行きなさい」ツンとした顔をしながら言ったかと思えば、すぐに最高の笑顔を見せてくれた。レジの女性店員は愛想笑いだ。仕方ない、大人しくトイレへ向かった。
足すほどの用もなかったので鏡だけ見てすぐに戻った。その頬は緩みがちだった。
ガラス越しに外で待っている彼女の姿が見える。さっきのレジの女性がまだ居たので、僕はある質問をしてから店を出ることにした。
店先にある大きな木製の樽に置かれたメニューを覗き込むようにして彼女は見ていた。
「もーう。店員さんと何いちゃいちゃしてたのよー?」彼女は小さい頬っぺたを目一杯膨らませている。ほんと表情豊かな人だ。
「あ、いや。あ、ご馳走さまです」
「いえいえ、こちらこそ素敵なお店を選んでいただいて。ほんと美味しかったぁ。ウニのクリームパスタ…ありゃハマりそうだ」ついさっき食べたばかりなのに、彼女は懐かしそうにまたメニューの写真を眺めている。
勇気を出した。「幸せにします」さすがに照れ臭かった。
「えっ?」今度は子供みたいにきょとんとした顔。
「あっ、『ティラミスにすればよかった』…とか」
「…」俯きながら頬を染めている。「もう」彼女はそう言って身体を寄せてきた。
歩き出す。二人は自然と手を繋ぎ合っていた。もう誰に見られてもいい。伸彦は湧き上がる自信のようなものを感じていた。
ほんの数分前。レジ前にて。
「ああ…直訳すれば、”私を引っ張り上げて“なんですけど。ようは、“元気づけて“とか。そうそう、“私を幸せにして“っていう意味もありますよ、“ティラミス“には」
「あ、なるほど。ありがとうこざいます」
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