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「はああぁ…………」
「どうしたの、おっきい溜息ついて」
響紀が珍しくしょげているので、琴音は気になった。いつもなら威勢よく「よっ!」と挨拶してくるのに、今日は「おお、お疲れ」だった。労われるのは少し意外な感じがした。多分、響紀が何かで疲れているから、そういう言葉が口をついて出てくるんだ。
毎週月曜日には琴音の所属する茶道部の活動があるので、学校を出る時間がいつもより一時間くらい遅くなる。そうなると、琴音がツリーハウスに着く頃には、大体帰宅部の巧哉と弓道部が休みの響紀が先にいる。巧哉が何かしらの参考書を読み込んでいて、それを響紀が横から覗き込んでちゃちゃを入れている、というのが良く見る光景だ。今日の場合、巧哉はいつもと変わらずで、持ち上げていると手が疲れてきそうな分厚い本に没頭していた。響紀はというと、特に目的もなさそうにスマートフォンで暇をつぶしていて、それをだらだらしながら今まで続けている。そんな時につかれた唐突の溜息だった。
「そんな特大のやつついてたら、幸せ逃げちゃうよ?」
「……え?」
響紀は豆鉄砲を食らったような顔をしている。言葉の意味の繋がりが分からなかったらしい。
「え? よく言うよね? 巧哉」
琴音は巧哉に助け舟を頼んだ。
「うん。聞くよ」
巧哉は視線を手元から外さない。
「まじか。じゃあ、吸っとくわ」
そう言って、響紀は突然、大袈裟に空気を吸い込んだ。その様子が可笑しくて、琴音は笑ってしまう。
「何やってんの」
「これでプラマイゼロだろ」
「そういう問題じゃないから!」
響紀の発想はたまに奇想天外なところがある。
「溜息に幸せが含まれてるんじゃないのかよ」
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