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お医者さんは、解凍直後で全然動けないくせに頭だけ完全に混乱状態に陥っている僕の理解が追いつくように、それは丁寧に説明してくれた。
僕は2019年の春、職場で突然意識を失ったらしい。どんな病気か診断もつかず、僕は次第に衰弱していった。僕の奥さんはハイバネーション…いわゆるところの人工冬眠を扱う海外の会社に問い合わせしまくって、そこで僕を凍らせた…そして2063年…僕が倒れてから44年後、僕の病気が遺伝子系のものであることが1年ほど前に解明され、すでにあらゆる遺伝子治療が可能になっている今日ではそれが半年ほどの投薬で完治することを教えられた。
44年…その数字を頭の中でしみじみと噛み締め、はっとする。
君はどこ?
今、いくつになってるんだ? ええと、あのとき僕が31歳で君は僕より4つ下、だから…くそっ、何でだ、うまく計算できない。
僕の慌てた様子を見て、お医者さんは銀縁の眼鏡のフレームを持ち上げながら俯いた。
「お伝えするのは心苦しいのですが…奥様はあなたがハイバネーションに入られてから半年ほどで亡くなっています」
「…は?」
ようやっと解凍が進んだらしく、声が少し出るようになった。
死んだ?
君が?
お医者さんがまだ何か言ってるけど聞こえない。…聞こえたくない。耳だけまた凍ってしまいたい。
何だよ、何だよ、君は。
僕を助けたかったんだろ。それは一緒に生きるためだったんだろ。なのに何で、勝手に自分だけ先に死ぬんだよ。何でだよ。
…僕の看病や、冬眠先探しで心労がたたったのか…? だとしたら、僕は、何のために。
何の、ために。
僕は冷凍から融けた。でも…
君との絆は、解けてしまったんだね。
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