桜雨の降る刻

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(なにが結婚式よ。わたしにとってはお葬式だわ) マナーモードにしているのにポーチの中で揺れているスマホ。 同僚からのラインだ。 “友達の結婚式なんだってね” “久しぶりの実家だね” “楽しんできてね” (こういう不愉快な内容を三回に分けて送信する必要があるの?) 改行のたびにブーブーとカバンの中で不愉快に響く。 そもそも職場が同じというだけなのに何故プライベートに立ち入るのか。 桜雨花澄は内心毒気づいていた。 (スマホだから無茶はしないけれど、これが手紙だったら千切って丸めてゴミ箱に振りかぶって豪速球で投げ入れるわ!) サテンで作られた可愛らしいパーティバッグはシャンパンピンクの花がたくさんついている。この日のために購入したものだ。内心大号泣で選んだ。 (だって愛する人がわたし以外の人と結ばれる日だもの) 桜雨香澄が愛する人……北山ありす。 明るくて元気でかわいくて賢い女の子。 北山ありす……23歳……彼女は、今、高校の時に初めて付き合ったひとと結婚する。 (なによ!わたしなんか幼稚園から、いいえ、その前の育児サークルから!ううん、七五三の3歳から!いやいや、産婦人科の新生児室のお隣同士から!それどころかお母さんのお腹にいた時から!ずっとずっと好きだったのよ!) 桜雨花澄は涙目で北山ありすの晴れ姿を見つめる。 「もう!花澄ったら!めちゃくちゃ泣いてるじゃない!」 「ほんと。花澄はありすが大好きだもんね」 披露宴の丸いテーブルを共に囲んでいるのは新婦の友人で、高校まで同じところに通った幼馴染だ。 幼稚園から一緒の彼女たちも若干泣いているが、単に結婚式に感動しているだけだ。 花澄はその点、大きく違う。 心の中で大声で叫ぶ。 (わたしには!失恋確定記念日なのよ!)
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