彼女たちへの処置

1/1
6人が本棚に入れています
本棚に追加
/7ページ

彼女たちへの処置

 彼の携帯電話から、彼女とのラインのやりとりを見る。  だんだんトークがフランクになり、デートの約束をする。  彼は何でいつも、二回目のデートからお泊まりするんだろう。  思えば、わたしのときもそうだった。  わたしの今の勤めているクリニックは、週に一度しか夜勤はない。  先生の自宅は裏にあり、奥さまも看護師だ。  看護師は奥さまの他に六人いるが、奥さまを含め三人で夜勤を交代している。  奥さまが少し細かい方なので、すぐに辞めてしまうナースもいる。  が、わたしは奥さまには気に入られている様だ。    奥さまからは、わたしは真面目できちんとした性格だと誉められる。  そう言われるなら、そうなのかもしれない。  先生も奥さまも六十代をすぎていて、大病の若い患者は、大手の病院に紹介している。  なので、少ない入院病棟にいるのは、ご高齢の患者さんばかり。  元気に退院する方もいるが、亡くなられる方も多い。  その内の何人かはわたしが殺してあげた。  先生に 「もう楽にしてください」 と言っていたからだ。  先生は痛み止めの点滴を打ってらしたが、患者さんが望んだのはそれではない。  みな、大きな息を吐くと、穏やかな顔で亡くなられた。  本望だったと思う。 「みどりが夜勤だから、実家に泊まってくるよ」 というのが、彼の病気の始まり。  薬剤の在庫も任されているわたしは、廃棄する注射器を何本か家に持ち帰っている。  消毒液もだ。 次亜塩素酸ナトリウム。  5CCもあれば、人は死ぬ。  彼の病気も、ひどくなる前に処置しなければ。  
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!