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僕のお返し
久しぶりに開いた。それは、保育園のころの文集だった。
俺はもうそろそろで引っ越すことになる。その荷造りの際、まるで自分を見つけてくれとお願いされたかのように、俺はそれを必死で探していた。押し入れの奥にで、保育園の時のものはきちんと整理されていて、その一番下に敷いてあった。
黄色い地の紙に、それぞれ自分の似顔絵が描かれている。ぐにゃぐにゃの線と、ぐるぐるの線がで構成された顔がある。これが俺だ。絵とは小学生のときに決別したので、この絵がすごく懐かしい。
昔の出来事に思い馳せながら、ページを捲っていると、一枚の紙が落ちてきた。二つ折りになった紙が、天使の羽のように陽光に照らされながらふわりふわりと落ちていく。床におちた真っ白な紙を拾う。ぱらっと開けてみると、そこにはたどたどしい線で、幼いひらがな並べてあった。
ぼくえ
ぼくわ、きよう、ひつこします。
わるいこと、してごめん。
ごめんなさい。
ぼくより
気味が悪かった。本当に昔の自分が描いたのだろうか。恐る恐るその紙を閉じて、もとあったページにするりと戻した。
すると、外から救急車のサイレンと、警察車両のサイレンがピーポーピーポーウーンウーンと鳴り始めた。これは、ぼくから、ぼくへのお返し。今日、引っ越そうと思っていたのに。さすがにそうはいかなかったようだ。自分の中の天使は悪魔を殺したらしい。
引っ越しばかりで、そのせいで友達もできなくて、才能がないと俺を虐げてきた美術関係の仕事に携わる親二人。
殺したのはぼくだ。
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