Prologue

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140fc46f-17e3-4032-bbdf-89681a1cdc75 ーーーーーまだわたしが幼い頃、 たぶん小学生の低学年くらいの頃から    時々こんな夢を見るようになった。 どこかの閑散とした    寂しげな海辺にわたしが一人で     誰かを探しながら座っているのだ。       たぶん季節は冬、 薄暗い灰色の低い雲が空一面を覆っていて… わたしは黒のウールのコートを着ているから、 そのことから考えても「冬」なのだろう。 「ただいまあ」ーーーーー と少しだけ明るめの声をかけても     家の中からは声だけでなく、     何一つ物音すらしない。 灯りと言えばテレビやポットなどの家電の 小さなLEDの灯りだけ。         真っ暗な玄関。       真っ暗なわたしの心。      あの夢の中のわたしと同じ。 玄関のスイッチをカチッと押すと 目の前の空間は明るくはなってもーーーーーー 寒々とした明るさの中に     一人放り込まれるだけのこと。        わたしーーーーー         内田華。37歳。
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