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華の死から、3年が経った。
俺は母親の施設の受付にいた。
認知症を患っていた母親の最後を見とり
最後の手続きに来ていた。
看病疲れなのか、華を失った悲しみなのか、体重も10kg近く落ち、かなり窶れてしまった。
「これで手続きは全て終わりになります」
「いろいろとありがとうございました」
施設を後にし自動ドアを開けると吹きすさぶ雪混じりの風に目を細める。
ーー華…お待たせ
ーーーーーまだわたしが幼い頃、
たぶん小学生の低学年くらいの頃から時々こんな夢を見るようになった。どこかの海辺にわたしが一人で誰かを探しながら座っているのだ。
たぶん季節は冬、
薄暗い灰色の低い雲が
空一面を覆っていて…
わたしは黒のウールのコートを着ているから、
そのことから考えても「冬」なのだろう。
わたしが海辺に座っていると「どうしたの?そんな悲しい顔して」と後ろから声がした。
その声はどこかで聞いたような優しそうな少し低めの落ち着いた男性の声。
そしてわたしが振り返ろうとすると振り返りざまにわたしの潤いをなくした
カサカサの唇にそっと彼の唇を重ねてくる。
「華、お待たせ」
「太郎ちゃん、やっと逢えた」
「待ったよ。待ち草臥れてた」
「ごめん」
「いいよ、キスしてくれたら許す」
そう言うとーーーーーーーーー
さっと消えていく。
そしてゆっくりと目を閉じた。
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