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それからというもの常に編集長の顔色を伺うようになった。当然と言えば当然の結果。
編集長の旦那と寝たんだから。
『内田さん!』って呼ばれる度にビクつく女。
そしてエリは相も変わらず
そんなわたしを見てニタニタする。
あれから保には会っていない。
というより会う勇気が出ないというか
根性がなくなったというか
それでも家に帰って
暗くて冷たくて
無意味に豪華な部屋の中で
一人で飲む酒はやっぱり虚しくて
思わず保にラインする。
保から送られて来る愛の言葉たち。
それが今の心の安らぎ。
そして身体の安らぎ。
ーー保、何してる?
返信に時間がかかると途端に落ち込み、
そして不安になり、やがては怒り出す。
戻らない言葉をずっと待ちながら
ハイボールを傾ける暇な時間。
目の前にはただ無意味に流れる恋愛映画。
今夜は『ケビンコスナー』主演の『A message in a Bottle』。
悲しすぎる恋愛映画。
亡くした奥さんを思い続けた男が、一人の女性に出会いようやく前向きになれたときに、溺れようとしていた親子を助けて、その為に海で死んだ話。
もう何回観たか分からない。
何回泣いたか分からない。
自分の境遇とは違うけど…それでもどこかだぶってくる。
結局、その夜は『虚しい一人寝の女の言葉』が戻って来ることはなかった。
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