第1章 爽やかな朝に、変態と出会いました

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 何か仕掛けがあるのか。でも糸なんか見えないし、朝早くにそんな手の込んだことをする理由がこの男にはない。 「あ、あなた一体何者ですか?」 「さっきから神様って言ってるでしょ。いい加減、信じなさいよ」  夢でも見ているのだろうか。頬をつねったが、ちゃんと痛い。 「も、もしかして死神?」 「昔はしてたわよ。でも今は部署が変わったの。はい、よければどうぞ」  男は懐からケースを取り出し、「始役所 縁結び課 西園寺伊三郎」と書かれた名刺を渡してきた。  なんだ、このふざけた名刺は。  猜疑心に満ちた目で名刺を見ていたら、男は2本指をずいっと私の目の前に突き出してきた。 「あの世の役所は二つあってね、生きている人間を始まりの役所と書いて『始役所』が、死んでいる人間を死の役所と書いて『死役所』が担当するの」  ややこしい。もう少しネーミングはどうにかならなかったのか。 「こ、この縁結び課っていうのは?」  「簡単に言うと、人間のカップルや既婚者を増やす課よ」 「ど、どうして神様がそんなことしているんですか。街コン会社じゃないんですから」 「そんなこと?」  男の体がわなわなと震えている。私は男の気に障ることを言ってしまったらしい。 「そんなの人間が減少してるからに決まってるでしょ!」  男はビシッと私を指差す。 「だから始役所でも数年前に縁結び課を設立して、出生率を高めようと努力してるの! わかる? 全てはあなたたち人類のため!」 「す、すみません」  すごい剣幕で怒る男の気迫に押されて、つい謝ってしまった。 「わかればいいのよ。私も少し言いすぎたわ」  男はわざとらしくコホンと咳払いをする。 「私の場合は異動願いを出して、1年前から業務にあたっているんだけど」 「も、元からキューピッドじゃないんですか」 「そうよ。前は死役所で死神をしていたの」 「ど、どうしてわざわざ、い、異動願いなんか」 「この制服を着るためよ! 汚れなき白。私にぴったりでしょ?」  男は自分のスーツに見とれ、うっすらと涙を浮かべている。 「異動願いを出し続けてよかったわ。何事も諦めないことが大切よね」 「し、死神時代の制服はどんなものだったんですか?」 「黒スーツよ。でも私の魅力を引き立てる色は白なの!」  
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