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何か仕掛けがあるのか。でも糸なんか見えないし、朝早くにそんな手の込んだことをする理由がこの男にはない。
「あ、あなた一体何者ですか?」
「さっきから神様って言ってるでしょ。いい加減、信じなさいよ」
夢でも見ているのだろうか。頬をつねったが、ちゃんと痛い。
「も、もしかして死神?」
「昔はしてたわよ。でも今は部署が変わったの。はい、よければどうぞ」
男は懐からケースを取り出し、「始役所 縁結び課 西園寺伊三郎」と書かれた名刺を渡してきた。
なんだ、このふざけた名刺は。
猜疑心に満ちた目で名刺を見ていたら、男は2本指をずいっと私の目の前に突き出してきた。
「あの世の役所は二つあってね、生きている人間を始まりの役所と書いて『始役所』が、死んでいる人間を死の役所と書いて『死役所』が担当するの」
ややこしい。もう少しネーミングはどうにかならなかったのか。
「こ、この縁結び課っていうのは?」
「簡単に言うと、人間のカップルや既婚者を増やす課よ」
「ど、どうして神様がそんなことしているんですか。街コン会社じゃないんですから」
「そんなこと?」
男の体がわなわなと震えている。私は男の気に障ることを言ってしまったらしい。
「そんなの人間が減少してるからに決まってるでしょ!」
男はビシッと私を指差す。
「だから始役所でも数年前に縁結び課を設立して、出生率を高めようと努力してるの! わかる? 全てはあなたたち人類のため!」
「す、すみません」
すごい剣幕で怒る男の気迫に押されて、つい謝ってしまった。
「わかればいいのよ。私も少し言いすぎたわ」
男はわざとらしくコホンと咳払いをする。
「私の場合は異動願いを出して、1年前から業務にあたっているんだけど」
「も、元からキューピッドじゃないんですか」
「そうよ。前は死役所で死神をしていたの」
「ど、どうしてわざわざ、い、異動願いなんか」
「この制服を着るためよ! 汚れなき白。私にぴったりでしょ?」
男は自分のスーツに見とれ、うっすらと涙を浮かべている。
「異動願いを出し続けてよかったわ。何事も諦めないことが大切よね」
「し、死神時代の制服はどんなものだったんですか?」
「黒スーツよ。でも私の魅力を引き立てる色は白なの!」
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