第4章 モテ期がきました

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「あ、い、いえ、そんなたいしたことはできませんが」 「そんなことない! 応援してくれる人がいるだけで心強いよ、あっ!」  店長は時計を見て、はっとした表情になった。 「僕、そろそろ休憩が終わるからもう行くね」 「は、はい」  慌ただしく部屋を出た店長を、私は見送る。 「どおりでラブラブサーチが反応してたわけね」  イッサは休憩室に置いているお菓子をぼりぼりと食べていた。呑気そうで羨ましい。 「ラ、ラブ?」  名前がダサい。心の声を押し込めていると、イッサがピンク色のハート型の機械を見せつけてきた。 「これ見て! 魔法少女の変身道具みたいでかわいいでしょ?」 「そ、そうですね」  とりあえず肯定をしておく。余計なことを言ったらきっと、話が長くなるからだ。 「この機械はね、ラブイベントが起きそうな人間が近くにいるとピカピカ光るのよ」 「ラ、ラブイベントっていうのは?」 「告白やプロポーズをするとかね。とにかく恋愛に発展しそうなイベントなら光るのよ」  画面は地図みたいになっていて、喫茶店の場所に二つのハートが薄くピンク色に光っている。 「この光はラブイベントが成功したら強く輝くわ。私たちのがんばりしだいね」  私はどんよりとした気分になった。自分さえ恋愛をしたことがないのに、他人の恋を成熟させられるのだろうか。 「や、やっぱり、私には無理ですよ。ひ、人の恋愛を応援するなんて」  それに応援する資格がない。人を傷つけることしかできない私なんかには。 「やってみなきゃわからないじゃない」 「わ、わかりますよ。う、上手くいくわけない。そ、それなら最初から何もしないほうがましです」 「上手くいかなかったら軌道修正すればいいのよ。それに失敗は悪いことじゃないわ」 「し、失敗したら、そ、そこで終わりですよ」 「いいえ。過ちは人間を決めないわ。過ちの『後』が人間を決めるのよ」  そんな考え方をしたことがなかった。私の過ちはどこまでも重く、暗い道しか見えない。だけどイッサの言葉は少しだけ、私の気持ちを照らした。間違えた自分に、チャンスがもらえた気がしたから。 「痛っ!」  イッサは私の両頬を餅のように伸ばした。
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