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「あなた、自分の立場をもう少し理解した方がいいわよ? あの写真をさらされたくなかったら、文句言わずに働きなさい」
このおかま野郎、人が大人しくしてれば調子に乗りやがって。いつか絶対、弱みを握ってやる。
「それに先輩も呼んであげるから大丈夫」
「せ、先輩? ど、どういう意味ですか」
「あなた以外にも私のげぼ……スケットがいるのよ」
「い、今、下僕って言いかけました?」
「細かいことはいいでしょ!」
こいつ私のことをなんだと思ってるんだ。
「エレナ、そろそろ交代よ」
休憩室のドアがガチャリと開き、さきさんが入ってきた。
「は、はい」
私は急いで休憩室から出ると、店内はいつもより騒がしかった。特に女性客が。はるかちゃんが興奮した様子でこちらに駆けよってくる。
「エレナちゃん! 今ね、かっこいい男の子が来店してるんだよ!」
はるかちゃんが指差す方向を見ると、ブレザーの制服を着た男の子が椅子に座り、優雅にコーヒーを飲んでいた。
手足が長く、サラサラの黒髪に白い肌。涼し気な目元に、鼻筋がスーッと通っている。塩顔男子という言葉がぴったりだ。
「た、確かにかっこいいですね」
「ああいうのが好みなの?」
いつのまにかイッサが横に立ち、不服そうに頬を膨らませていた。
「そ、そういうわけでは」
「隣にイケメンがいるのに」
イッサは手鏡で自分の顔を見て、うっとりとしている。どれだけナルシストなんだ。
「美しさって罪だわ」
「じゃ、邪魔するなら帰ってくださいよ」
そんな話をしていると、はるかちゃんがバンバンと私の肩を叩いた。
「い、痛い、痛いよ、はるかちゃん」
「ねえ、あの男の子、エレナちゃんの方見てない?」
「えっ、そんな訳」
塩顔はがっつり私を見ていた。会いたくない人を見つけてしまった嫌そうな顔で。そして、観念したように私の方に歩いてきて、じっと品定めをするようにこちらを見てきた。
「あ、あの、な、何か御用でしょうか」
「あんたバイト何時に終わるの?」
「えっ、きょ、今日は16時で終わりますけど」
「じゃあそれまで待ってるから少し付き合ってよ」
「えっ、ええっ?」
そう言って塩顔は席に戻った。私は状況が理解ができず呆然と立ち尽くした。
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