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16時。厨房から客席を覗くと、塩顔はまだ店内に残っていた。
冷静に考えた。こんな冴えない私に、イケメンがあんなことを言うなんて……新手の詐欺に違いない。ここは逃げてしまおう。
裏口から帰ることにした。ドアを用心深く開けると、誰もいない。外に出て、ガッツポーズをする。
「よし!」
「何がよしなんだ」
恐る恐る振り返ると、塩顔がドアの壁に寄りかかり、どす黒いオーラを放ち、腕を組んで立っていた。
やばい。殺されるかもしれない。頭の中の非常ベルが激しく鳴り、生命の危機を全身で感じる。
「ぎゃあぁ!」
逃げようとしたら、塩顔はだんっと壁に私を押し付け、逃げ道を塞いだ。
おかしい。壁ドンなのに全然ときめかない。
「人がせっかく2時間も待ってたのに、何帰ろうとしてんの?」
「さ、詐欺師ですか?」
「はっ? あんた何言ってるんだ?」
「と、とぼけないでください! どうせその気にさせて、後からお金を絞りとるんでしょ!」
塩顔はチッと舌打ちをした。ついに本性を現したな。
「おいっ、伊三郎! まだ話してないのかよ!」
塩顔が伊三郎と叫ぶと、イッサがひょっこりと現れた。
「あら、話してなかったかしら?」
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