歳の数だけ

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 そして。事故から50年経った今。  彼はこの病院で自らの命を終えようとしていた。  医師が彼の口元から呼吸器を外す。入院中、絶えずつけていたそれを失っても、彼の呼吸は少しも乱れない。静かで弱々しい息づかい。死期の近さを物語っていた。  あなた、と耳元で呼びかける。ここのところ、終始閉じられていた瞳がわずかに開いた。目が合う。こちらが微笑みをかけると、彼の唇は弧を描いた。  その表情のまま、彼は別れの言葉を口にした。 「ありがとう……愛していたよ……“初恵”」  彼は眠るように息を引き取った。
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