1人が本棚に入れています
本棚に追加
「ミオちゃん。当てて見せよう。マタニティ・ブルーだね」
……マタニティは妊娠。ブルーは、ゆううつ。
ああ!
私のオーナーである夫婦に赤ちゃんが生まれる。
そのことを言ってるのか。
「残念! 私はセラミックの白と、金継ぎの金、漆の赤だけだ! 」
私のボディは、陶磁器と漆器で彩られている。
陶磁器の部分には割れ目が入ったから、金継がしてある。
金継ぎとは、割れた陶磁器を漆と小麦粉でつなぎ、金ぱくで仕上げる修理方法。
42年もたつと、いろいろあるんだよ。
顔まで陶器と漆器だから、人間のような表情は作れない。
それでも、どれも日本の伝統芸能だ。
「赤ちゃんを心配するのは親の役目。私は仕事の心配するのが役目。お互い、がんばってるんだ」
私のオーナーたちは、高級レストランのシェフ。
料理は自分たちでやりたいというこだわりがある。
まったく、10年前にかけ落ちして、前のオーナーである夫婦の元に転がり込んできた高校生のカップルが立派になって。
泣いちゃいそう! 鼻が高いよ!
……涙も鼻もないけど。
私の出番は、夜のフロアスタッフだけだ。
実は、このバスには独自のAIがあるから、勝手に走ってくれる。
運転手さんは、通勤通学で多くの人が利用する時間帯だけの、バックアップとしてやっている。
この後は、優辞ちゃんの中学校で管理AIの仕事がある。
どちらもバイトみたいなもんだ。
しかし不思議だ。
今日に限って優辞ちゃんは何も話しかけてこない。
……話しかけてみるか。
「そうそう。最近うちの店のコーヒーを新しくしたんだ。
また飲みに来てよ」
優辞ちゃんは大人びている、とされたことなら、何でもしたがる。
こうやって誘えば、必ず飛びつくはずだ。
そして頼むのは、甘党のはずなのにブラック。
のハズなのに。
「うん。考えとく」
……本当に、どうしたんだろう。
最初のコメントを投稿しよう!