愛妻弁当とチェックメイト

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愛妻弁当とチェックメイト

 どこまでも高く突き抜けてゆくようで、一目 ()れという魅力を振りまく青。聖水よりも透明、どんな絵の具でも描けない、晴れ渡った青空。  そこに時々入り混じる、ハラハラと舞う粉雪のような頬染めた桜の花びら。春風という輪舞曲(ロンド)(たわむ)れる新緑の香り。  そんな穏やかで美しい景色に、はつらつとしているが少し鼻にかかる男の声が、さっきから元気に響き渡っていた。 「こちらは、ディーバ ラスティン サンディルガー、コンサート会場となります。大会へお越しの方は、さらに奥に進んでいただくようお願いします」  高貴の意味を表す紫。それを基調にした金糸の刺繍(ししゅう)と袖口の白が洗練されたデザインを(ほこ)るマントの向こうで、さっきからずっと、どよめきが起き続けていた。歓喜や驚き、感嘆と言った様々な人の歓声が。 「周辺の地図ってありますか?」 「ありますよ。はい、こちらです、どうぞ」  男に手荷物などないのに、縦長のパンフレットが手の中に現れ、それを丁寧に渡すと、話しかけてきた若い男は頭を下げた。 「ありがとうございます」     
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