手紙と不意打ち

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手紙と不意打ち

 さっきからひっきりなしに、メインアリーナの入り口に吸い込まれていっているのに、全く(おとろ)えない長蛇の列。会場からは、嵐の豪風が吹きすさぶように、どよめきが湧き上がっては、興奮という色をそこら中にまき散らす。  細いロープが横に張られた中で、前へ前へと動いてゆく人々。そこへ、あちこちに設置されたスピーカーから、ずっと同じことがアナウンスされ続けていた。 「2回戦Bグループに出場予定の、歯がベリーシャープなシャークさん、試合開始10分前ですので、今すぐ受付の方に武器を(すみ)やかに戻していただいた上で、近くにいる係員にお知らせください! 今のままでは不戦勝となりま~す!」  近くの植え込みには、春の花々が笑顔を見せ、お互いの肩に腕を回して、左右へ揺れながら歌い上げるように風に踊っている。その奥には青空の上に浮かぶ、緑豊かな芝生。春風が吹き抜けるたびに、サーッと葉音を立てる木々。  そんな穏やかで平和な場所に似つかわしくない、武器という言葉。だが、誰も気にした様子もなく、ごった返す会場へやってきた人々の、待ちわびるざわめきの中で、同じアナウンスが繰り返される。     
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