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ラブレターと瞬間移動
色っぽく結わかれた赤のお弁当の包みは、男っぽくガサツに結び直されていた。妻の愛で満たされたお腹を、ロッキングチェアーの上で食後の一休みをさせる。
ジーパンと椅子の間に挟んでいた、女性らしさを振りまく桃色のラブレターなのに、差出人は自分と同じ男。しかも、既婚者の自分に送ってくる、修羅場という嵐を待つような静けさを思わせるような相手。
手紙の主を探す。いや、こんなふざけたことをしてくる犯人を、明引呼は敏腕刑事並みに、しょっ引こうとする。
桃色の封筒が左手。水色の便箋が右手。青空に透かすように、裏表にひっくり返すを何度もしながら、アッシュグレーの鋭い眼光は、アリ1匹も見逃さないように見ていたが、やがて、この手紙のさらにおかしな点を指摘した。
「どこにも名前、書いてねぇんだよな。どんなラブレターだよ? これじゃ返事聞けねぇじゃねぇか。片想いどころの騒ぎじゃねえだろ。一方通行すぎだろがよ」
どこかに呼び出されるでもなく、イニシャルが書いてあるわけでもなく、本文のみのラブレター。色気漂うほど綺麗な筆文字なのに、ツッコミどころ満載、いや笑いの前振りだらけ。
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