麦の人

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* ──謝りたいことが、あるの。 唐突に、遠い昔の後悔が浮き上がった。 酷い言葉を投げつけたわよね。 涙が目尻から溢れるが、拭う力も残ってはいない。 指の一本ですら動かせないのだ。 人間はある一定のレベルを越すと、痛みを感じなくなるのだろうか。 自動車に轢かれた私の周りに、人が集まってきた。 唯一動かせる目を動かしてみる。 私が庇った子どもも、涙を浮かべているのが視界の端に見える。 話したいことも沢山あるのよ。貴女がいなくなってからのこと。 私にも子供ができたの。 あれから何十年も経つから、貴女は私に気付くかしら。 変わってしまった、私を。 貴女の声は、もう思い出せない。 脳裏に焼き付くのは、夜空のような黒い髪に黒い瞳。 人混みを掻き分けて、私に近づく少女がいた。 黒い髪に、黒い瞳。 年齢も背格好も、あの時のままの姿だ。 彼女の、右耳に付けられた黒い装飾具が揺れる。 ──あぁ、私は死ぬのかしら。 どちらにせよ、私には責める資格はない。 公正なる審査を、みせて頂戴。 私の、愛しの死神よ。 *
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