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──謝りたいことが、あるの。
唐突に、遠い昔の後悔が浮き上がった。
酷い言葉を投げつけたわよね。
涙が目尻から溢れるが、拭う力も残ってはいない。
指の一本ですら動かせないのだ。
人間はある一定のレベルを越すと、痛みを感じなくなるのだろうか。
自動車に轢かれた私の周りに、人が集まってきた。
唯一動かせる目を動かしてみる。
私が庇った子どもも、涙を浮かべているのが視界の端に見える。
話したいことも沢山あるのよ。貴女がいなくなってからのこと。
私にも子供ができたの。
あれから何十年も経つから、貴女は私に気付くかしら。
変わってしまった、私を。
貴女の声は、もう思い出せない。
脳裏に焼き付くのは、夜空のような黒い髪に黒い瞳。
人混みを掻き分けて、私に近づく少女がいた。
黒い髪に、黒い瞳。
年齢も背格好も、あの時のままの姿だ。
彼女の、右耳に付けられた黒い装飾具が揺れる。
──あぁ、私は死ぬのかしら。
どちらにせよ、私には責める資格はない。
公正なる審査を、みせて頂戴。
私の、愛しの死神よ。
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