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肩に掛けていた鞄から、麦の穂と天秤を取り出す。
彼女は両手を合わせながら何かを呟いたあと、麦の穂から一粒ずつ千切り、片方の天秤に乗せていく。
一つ、二つと乗せていく様を、皆が固唾をのんで見守る。
ちょうど二十粒目を乗せたとき、麦を“乗せた方”の天秤が上がった。
片方には何も乗っていないのに、だ。
それを見た、ヨハンの両親は泣き崩れた。
麦の人は、天秤を用いて蘇生するか否かを判断するのだ。
本人はもとより、家族やドクターにも判断を覆すことはできない。
遅れてドクターが汗だくで到着したが、麦の人は彼に向かって黙って首を振った。
「ドクター! ヨハンを、ヨハンを助けて下さい……!」
「麦の人が、否と言うならば私に出来ることは何もない」
麦の人は、麦の穂と天秤を鞄にしまい踵を返した。
「──この、人殺しがっ!」
ヨハンの母親が、麦の人に石を投げつける。
石は麦の人の目蓋に当たり、彼女は無言で左目を押さえた。
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