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麦の人は椅子に座って項垂れていた。
黒猫は、タオルの上で足を踏み踏みと綺麗にしてからテーブルに飛び乗った。
「ケット・シー……。痛い……」
「早く消毒しなよ」
「違うよ。心が痛い……」
はぁ、と麦の人は更に俯いた。
それと同時に、左耳の黒い装飾具が揺れる。
「そんなにショックを受けるのなら、皆に言い返せば良かったじゃない!」
一人と一匹が此方を向いた。
私は、開けっ放しの窓から中を覗いていたのだ。
「……あ、あ」
言葉を忘れたかのように、麦の人は口をパクパクさせた。
「クロエ、帰って貰いなよ」
黒猫が、クロエと呼ばれた麦の人の腕を尻尾で叩いた。
「やっぱり、その猫は喋るのね!」
私がそう言うと、今度は黒猫が口をパクパクさせた。
「あー。君、ケット・シーの言葉が分かるの?」
「何を言ってるの? 猫は喋らないのは知っているけれど、その子は喋っているじゃない」
「怖くない? 可笑しいって思わない?」
「わたしはそんなんじゃないわ。見たものを信じるの」
私は米神を指でトントンと叩いた。
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