付き合っているわけではないのだから

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 楓が横で大きなため息をつく。俺はいったい何度このため息を聞けば気がすむのだろうか。  三塚楓とは物心ついた頃からの付き合いだった。一番古い記憶から一緒にいるので、もはや家族みたいなものでもある。  そう思っている一方で、周囲は当然そうは思わないわけで。 「なになに? お前ら付き合ってんの?」 「ヒューヒュー! ラブラブ?!」  何度も言われてきたヤジだった。それを言われるたびに楓は、決まってこう返す。 「んなわけないじゃん。バカじゃないの?」  そのゾッとするほど冷たい声を聞いた者は、必ずヤジを飛ばすのをやめる。が、少ししたらまた言い出して、また言われて、またやめて……その繰り返しである。  昔は赤くなって声を荒げていた楓も、中学に上がってからはすっかり表情一つ変えなくなった。当然、慣れというのもあるのだろう。だが、なぜかそれが悔しかった。楓が恥ずかしがってすらいないことにも、満更でもないと思っている自分にも……。 「椿くん?」  その声で我に返る。  目の前には、俺の顔を覗き込んでいる嵯峨野さん。太陽はすでに傾き、教室には俺と嵯峨野さんしかいなくなっている。 「あ、うん……えっと、なに?」     
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