付き合っているわけではないのだから

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 ついつい緊張してしまう。放課後の教室に、目を見張る美少女。心臓の音がうるさくなる。夏服に変わってしまっているので、相手に伝わってしまうのではと思うほど激しく音を鳴らしていた。 「あのね、あの……」  モジモジと体を揺する嵯峨野さん。否が応でも続く言葉を意識してしまう。 「わ、私……椿くんのことが好きです! 私と、つっ、付き合ってください!」  期待通りの言葉を聞き、期待以上に胸が高鳴る。高鳴りすぎて体を突き破りそうだ。  人生で初めての告白を受け、頭が真っ白になる。何を返せばいいのか、自分が今どんな顔をしているのか。何もかもがわからなくなる。  そんな中、ふと視界の端で何かが動いた。  そちらに視線を向けると、教室を覗いている楓と目が合った。一瞬、血の気が引くのを感じる。  だが、楓はいつも通り表情一つ変えず、教室に背を向けて去って行ってしまった。引いていた血の気が、一気に頭へと戻ってくる。  視線を戻すと、不安そうにこちらを見ている嵯峨野さんの顔がある。  血が上った頭は、正解かどうかもわからぬ一つの答えを出した。 「……俺でよければ、よろしくお願いします」  敬語になってしまったのは、緊張のせいか、それとも……。  とにかく、目の前で喜ぶ嵯峨野さんを見て、自分の出した答えが正解だと思い込む。別に、俺の選択に楓の存在は関係ない。ないと思い込む。     
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