付き合っているわけではないのだから

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付き合っているわけではないのだから

チャイムが鳴る。 生徒たちがバラバラと教室から出ていく。その姿をぼんやりと見送りながら、眠気を払うように瞬きをする。 「悠人、帰ろーぜ」 「おー」  部活仲間から声をかけられる。自分でもびっくりするくらい間抜けな返事をしながら、教科書や筆箱を鞄に放り込んでいく。  くだらない話をしつつ、片付けが終わる。  鞄を肩に引っ掛け、立ち上がろうとしたその瞬間、 「椿くん」  その声に、教室に残っていた男子が大きく、あるいはこっそりと反応する。当然、俺自身も驚いて声がした方を見る。驚きすぎて中途半端な格好で固まってしまった。膝が震える。その震えが伝わった……というわけではないのだろうが、自分の口から漏れた声も震えていることに気づいた。 「さ、嵯峨野さん?」  丸い眼鏡にきっちりとしたおさげ。どこか野暮ったい印象を残すクラスメート……嵯峨野葵さんが立っていた。 「あの、さ……椿くん、放課後時間ある?」 「え?」 「少し、お話ししたいなぁ……なんて」  色白の頬を真っ赤に染め、恥じるようにそう口にする嵯峨野さん。その姿を、声を、状況を、脳みそが処理しきれず硬直する。固まった頭は何を思ったのか、少し前の記憶を掘り起こしてきた。     
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