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そんなやり取りをしている間に、駅に着いてしまう。
もっといたい。そんなこと言えなくて。
「それじゃ、またあした! 」
「ああ、あしたな」
いつもとおなじようにわかれた。
俺は無意識に目を細めながら、改札を抜け、見えなくなるまで見送る。
でも、知ってるんだ。
アイツは振り返る。
改札を出て、笑顔で俺に手を振って、また数歩進んで手を振る。
その間、俺はずっと手を振っていた。
名残り惜しむように。
消える寸前、『早く行けよ』と言わんばかりに手をシッシッと、はにかんだように笑いながら合図した。
軽く手をあげ、後ろをむく。
でも、すぐに振り返ってしまう。
ちょうど来た電車に乗り込むところだった。
閉まったドアのガラス越しに、また互いに手を振る。
すぐに見えなくなった。
──♪♪
スマホの着信音が鳴る。
開くとアイツからのLINE。
『さっさと帰りなよ、バーカ(笑)』
思わず顔が緩む。
悩むのはやめだ。
『おまえが転ばないか心配なんだよ、バーカ(笑)』
『転ばねーよ、バーカ(笑)』
ますます緩む。
傍から見れば、彼女とやり取りしているように見えるだろう。
男同士でなにやってんだ、と思いながら。
『また明日、な』
『ああ、また明日な……』
いつかきっと話せる時が来る。
「好きだよ、バーカ」
言えない言葉を呟く。
──♪♪
ボイメだった。
『大好きだよ、バーカバーカ。離れてやらないからな、親友! 』
……俺はスマホを持ったまま、顔を覆ってうずくまる。
意味が違っているとわかっていても、嬉しい気持ちが先立ち、真っ赤になる。
「ズルい……」
──俺がそれにボイメで返信出来たのは、少し経ってからだった。
Fin
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