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後輩と先輩
──もうすぐ卒業式。いつも一緒にいる先輩が卒業してしまう。
「今日も暇だなー」
「そうですね、文芸部とは名ばかりの帰宅部ですから。帰宅してないですけど」
「部室に帰ってきたんだよ」
「部室を自室にしないでくださいよ」
いつもと変わらない会話。
くだらないと言ったらそれまで。
俺には違う。
あと少しで先輩は卒業してしまうから。
一日一日を噛み締める。
「なーにしんみりしてんだよ。俺がいなくなるのが淋しいのかあ? 」
声が沈んでしまっていることはバレバレだった。
後ろからじゃれるように抱きつかれる。
「そんなんじゃないですよ」
人の気も知らないで。
過度なスキンシップをされた。
冷静でいられるわけがない。
身体が火照るのを感じた。
恥ずかしくて、ぶっきらぼうに振り払ってしまう。
「恥ずかしがり屋さんめ」
気にもとめずに頬をつねられる。
そうやってすぐ触るから困るんだ。
「そういうの誤解されるんでやめてください 」
ニヤニヤ笑いながらも離れてくれる。
「……俺がいなくなる前に直らなかったなー。そんなんだから、彼女もできないんだぜ? 」
一番言われたくないことだった。
「先輩だっていないじゃないですか」
言って顔をあげると、少し離れた開けっ放しの窓の風を受けていた。
その姿に息を飲む。
見惚れてしまっていた。
嗚呼、やっぱりカッコイイな。
「……いらねえよ。ほしいもんは手に入らないから」
意味がわからず、会話が止まった。
俺はその言葉の意図するところを察することが出来なかったから。
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