後輩と先輩

1/2
2人が本棚に入れています
本棚に追加
/4ページ

後輩と先輩

──もうすぐ卒業式。いつも一緒にいる先輩が卒業してしまう。 「今日も暇だなー」 「そうですね、文芸部とは名ばかりの帰宅部ですから。帰宅してないですけど」 「部室に帰ってきたんだよ」 「部室を自室にしないでくださいよ」 いつもと変わらない会話。 くだらないと言ったらそれまで。 俺には違う。 あと少しで先輩は卒業してしまうから。 一日一日を噛み締める。 「なーにしんみりしてんだよ。俺がいなくなるのが淋しいのかあ? 」 声が沈んでしまっていることはバレバレだった。 後ろからじゃれるように抱きつかれる。 「そんなんじゃないですよ」 人の気も知らないで。 過度なスキンシップをされた。 冷静でいられるわけがない。 身体が火照るのを感じた。 恥ずかしくて、ぶっきらぼうに振り払ってしまう。 「恥ずかしがり屋さんめ」 気にもとめずに頬をつねられる。 そうやってすぐ触るから困るんだ。 「そういうの誤解されるんでやめてください 」 ニヤニヤ笑いながらも離れてくれる。 「……俺がいなくなる前に直らなかったなー。そんなんだから、彼女もできないんだぜ? 」 一番言われたくないことだった。 「先輩だっていないじゃないですか」 言って顔をあげると、少し離れた開けっ放しの窓の風を受けていた。 その姿に息を飲む。 見惚れてしまっていた。 嗚呼、やっぱりカッコイイな。 「……いらねえよ。ほしいもんは手に入らないから」 意味がわからず、会話が止まった。 俺はその言葉の意図するところを察することが出来なかったから。
/4ページ

最初のコメントを投稿しよう!