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麒麟草
うちに帰ると花が咲いていた。
白い花である。
小さく、丸い。さほど飾り気はない。だがいくつかが密集して、愛らしげである。
やっとのことだった。
随分長く待っていた。
小さな苗を買ったのは一昨年だったか、その前だったか。
黒いビニル製の器は、土に植え替えるまでの仮初の鉢であったが、私はそれをそのまま白い別な鉢に入れ込んで、土を足さずに水ばかりを与えていた。
間もなく苗は勢いを失い、細くひょろひょろとした草となった。
それをずっと育てていた。
相変わらず、草はひょろひょろ細長い。糸といっても過言でない緑色の茎とも葉ともつかないものが、土から数本飛び出している。ところに花が咲いている。
小さい。実に小さい花だ。
白く、可憐である。
私はそれを自慢した。
親しい間柄の相手はこれを喜んでくれ、私は一層得意になった。
これは増やさねばなるまい。
自負して早速株分けを始めた。
前に枯らした植物の鉢が残っている。半円状の多肉種であったが、うんともすんともいわぬ間に腐った。その半円状はまだ土の上に形を残していたが、私はこれをひっくり返して新たな苗床とした。土は未だ半分湿っていた。
花の咲いた植物の一本を土ごと掬って植え替える。いかにもひょろ長い。芝生の芝の一本をわざわざ引き抜いたかのごとき覚束なさだ。
私はこれを新たな鉢にしっかりと埋め込んだ。鉢は黒色をしている。ぐにゃぐにゃと定まらぬ形のビニル製である。
私は非常に満足した。
花は一向見当たらない。
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