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春の間際に
バスを探していた。
見慣れた街の、歩きなれた道で、バスを探していた。
風景は灰色くけぶっている。春霞であろうか。
気候は温くも寒くもなく、なんとはなく曇っている。遠景はよく見えない。
私はバスを探している。
何処へ向かうのかは知らない。どのバスに乗ればいいのか。知らぬまま、バスを探している。
毎日うっとしい程に常時停車しているはずの、辺鄙な山上へ向かう黄色いバスも、比較的新しい大型商業施設へ向かう白っぽいバスも、今日に限って見当たらない。
そわそわと落ち着かない。だのに茫っと突っ立って、私はバスを待っていた。
やがて一台が滑り込む。
なんの変哲もない。長い車体のやや後方が、気の抜けた音を吐き出して、ぽっかりと口を空ける。迷わず乗り込んだ。
行先は知らない。
行くべき先も知らない。
遠くへ行きたいわけでもない。恐らく。
ただ、来たから乗った。それだけ。そうしてバスは走り出す。振動しながら体が何処かへ運ばれてゆく。カラの頭を乗せ、灰色く暈けた車窓が流れ出す。
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