ぬくもり

3/9
前へ
/17ページ
次へ
ここは新宿二丁目、 色んな人が、色んな形で楽しめる場所。 そこのとあるビルの 2階にある小さなBAR。 看板代わりの『liberte』 という字が点灯し、 小さな鐘のついたドアを開ける。 カランカランと音がなり、 私を迎えてくれる。 「ごめんね、千咲呼び出して。」 店主のナルさんが声を掛けて来た。 見かけは、アタマを2ミリ位に剃り、 髭が生えていて強面なのだが、 中身は乙女で、優しい方なのだ。 「おはようナルさん、 いいよ、聡でしょどうせ。 それにしても今日は暇だね~。」 いつもなら、この狭い空間に、 人が集まっているのに今日は、 私と、あと一人。 「2月だもの、何処も暇よ。」 「流石二・八だけあるわ。 よいしょっ、何かオススメのお酒頂戴。」 私はカウンターの高い椅子に座り、 ナルさんにお酒を所望する。 「甘いの?辛いの?」 「甘いので。ナルさんも何か飲んで。」 「ありがとう、頂くわね。 聡、千咲来てくれたわよ、起きなさい。」 もう1人の私を呼びつけた男、聡。 もう結構呑んでいるらしく、 机に突っ伏していた。 「ん~……よう千咲。」 目を真っ赤にして此方を向いた。 「ようじゃないし、何?」 「予想出来てると思うけど彼氏。」 ナルさんはカチャカチャとお酒を 作りながら、聡の話しをする。 「女を部屋に連れ込んでるから、 帰ってくるなって言われたみたいよ。」 「はぁ?それでノコノコ出てきた訳? ばっかじゃないの?」 「まぁまぁ千咲、同性同士の恋愛って、 難しいのよ。」 と、青色の綺麗なカクテルを 差し出してくれた。 ナルさんと乾杯しそれを口に含んだ。 「俺だって、アイツが 本気じゃないのは分かってる。」 「なら、何で別れないの?」 「しゃーねぇだろ……。」 聡は髪をぐしゃぐしゃとして、 ウイスキーのロックをグビっと飲んだ。 「ホントバカ過ぎて呆れる。 働いたお金もほぼ取られて、 追い出されて、ほっとかれて、 そんな奴の何処が好きなの?」 「……。」 悲しそうな顔をし、聡は何も言わない。 「私は、聡の気が済むまで一緒に 居たら良いと思うわよ。 傷ついても後悔したくない 気持ち分かるから。」 私には全然わからない、 そんな人とは1秒たりとも 一緒にいたくない。
/17ページ

最初のコメントを投稿しよう!

11人が本棚に入れています
本棚に追加